カルロス・ゴーン氏の身を更に安全にする方法 カルロス・ゴーン氏の身を更に安全にする方法


世間ではカルロス・ゴーン氏の逃亡が注目を集めてゐる樣です。個人的には四輪にはあまり興味が無いので日産であれトヨタであれ社内のゴタゴタなんてどーでもいいんですが(笑)ゴーン氏が逃亡成功後に記者會見を開いたとの記事をBloombergで讀んでみました。

Ghosn was facing trials that could have landed him in prison for more than a decade when, last week, he bolted to Lebanon in a private jet from Osaka's Kansai International Airport to escape what he described as a "rigged Japanese justice system."

"rigged Japanese justice system."とは嚴しい表現を使ってますね〜。rigと言ふ語は以下の樣に使はれます。

Reports from the United States say the Justice Department has launched a criminal probe into Volkswagen's rigging of its emission tests. Volkswagen has admitted that 11m of its diesel vehicles contained software to evade emissions tests.(BBC)

お馴染みのフォルクスワーゲン社の排ガス問題です。人爲的に不正な操作をする、とかなり惡いイメージを表現する語です。

ゴーン氏は日本のやり方は人權の蹂躙であり、真っ當な裁判を受けられる國でなら裁判を受けると言ってます。

"I am here to expose a system of justice that violates the most basic principles of humanity," Ghosn said at the press conference. "These allegations are untrue and I should never have been arrested."

Ghosn said he would stand trial "in any country where I believe I can receive a fair trial," but didn't think that was the case in Japan. He said his lawyers told him he might have had to spend five more years in the country before his case would be resolved.

ゴーン氏が(日本當局からの)自分の身の安全を更に確實にしたいのなら非常に效果的な方法があります。ロッキード事件、即ち田中角榮の裁判を引き合ひに出し日本はこんな野蠻な裁判をする國だと全世界に向けて發信すればいいのです。

恐らくこれを讀む日本人の殆どは意味が解らないと思ひます。その事實も含めて世界の文明國から見ると日本は野蠻國なのです。

角榮裁判の問題の核心は故・渡部昇一氏が『萬犬虚に吠える』に於いて詳しく論證してます。その中で特に強調されたのが反對尋問の權利を奪はれた事。私が説明するよりも一流のプロの解説を讀む方が確實でせう。以下に『田中角栄の遺言』(小室直樹)を引用します。


 裁判所は、証人の証言を鵜呑みにしない。不正確かもしれないし、証人が嘘をつくことだってあり得る。証言は正しくなされなければならない。証人は、まず、宣誓させられる。それゆえ、嘘をつけば偽証罪に問われる。
 米英はじめデモクラシー諸国における偽証罪はきわめて重い。刑罰が重いだけではない。社会的制裁も厳しい。偽証罪で有罪になったら、社会的信用はほとんどゼロ。だから世の「嘘つき」諸君も、証言だけは嘘をつかないように心掛ける。
 それより重要であるのが反対尋問。これぞ致命的に重大。検事側の証人に対しては、弁護側が反対尋問をして嘘を暴くべく努める。反対尋問こそデモクラシー諸国における裁判の要諦。不可欠な道具立てなのである。


 われわれの中で、外国の報道機関、外国人の物書き、外国人の法律学者などなど、法律に接触する人々に、次のことをけっして漏らしてはならない。
「田中角栄被告は、ただの一度も最重要証人に反対尋問する機会を与えられることなく、有罪を宣せられたのである」
 それを聞いた文明国の人は、百人が百人、千人が千人、万人が万人、一人残らず日本はそんな野蛮国であったのか、と仰天することであろう。われわれはそんな国の恥を、世界の目にさらすことはないのである。
 (「『角栄裁判』は東京裁判以上の暗黒裁判だ!」渡部昇一『諸君!』昭和五十九年一月号)


 渡部昇一教授は法律には素人だが、専門の言語学(英語)の研究を通して欧米社会の精神に精通されており、さすがに鋭い。この論文は、反対尋問なき裁判がいかに野蛮な行為かを指摘した最初のものであった。
 デモクラシー諸国において、反対尋問抜きの裁判などということは、車輪のない自動車ほどにも考えられないのである。裁判とは、要するに、適法過程(due process of law)の展開過程である。反対尋問抜きの法廷が何で適法であり得よう。角栄裁判は、暗黒裁判と言われても、反論のしようもない。


渡部氏がこの見解を發表した當事、「何がなんでも角榮を有罪に!」との空氣に包まれた日本社會では孤軍奮鬪の状態でした。「法律の素人のくせに」と言った類の批判もなされました。ところが渡部氏の論理の正しさに觸發されてか角榮とは敵對關係にあるとも 言へる共産黨の辯護士・石島泰氏までもが角榮裁判は法の精神を蹂躙すると批判を展開します。因みに小室直樹氏も實務の專門家(辯護士)ではありませんが法學博士の學位(東京大學)を持つ人です。

反對尋問の權利を奪ってまで一國の首相を勤めた人に有罪判決を 下した。この事實をゴーン氏は指摘して強調すればいいのです。「南京大虐殺」(最大19萬人しかゐなかった場所で30萬人を殺したんですか?)や「從軍慰安婦」(民間業者による募集廣告とかありますけど?)の樣な捏造と違ひロッキード裁判は紛れもない事實です。この事實を世界に向けて公表し、「だから私は日本を脱出したのだ」と主張すれば、凡そ文明國であればゴーン氏の行動は正當化されると判斷するでせう。


 昭和五十八年一月二十六日、田中角栄に懲役五年が求刑された。ただ、それだけのことである。それなのに、マスコミはじめ文化人など、日本中が発狂したように喜んだ。ほとんどの人が、これで実刑判決は確実だ、角栄の有罪は証明されたと言いまくった。これ、デモクラシー諸国における態度としては、とんでもないことである。もっととんでもないことは、「とんでもないことだ」ということに気付いた人がほとんどいなかった。このことである。
 英国はじめデモクラシー諸国においては、裁判に予断があってはならないと考える。予断は裁判の禁忌である。それであればこそ、裁判が始まれば、学者評論家は発言を控え、マスコミも、ごく簡単な経緯しか報道しなくなる。万が一にも、予断が入って、裁判官の心理に影響が及ぶと、公平な裁判ができなくなるからである。それでは困るから、裁判が始まると、国中がひっそりとしてしまうのである。これが、デモクラシー諸国の常。
 これと正反対なのが日本。検事が求刑しただけで被告は有罪と決めつけてしまう。デモクラシーなんか薬にしたくてもない。まったくの徳川時代的センスではないか。しかも、マスコミはいっせいに角栄有罪と書きたてるではないか。心ある欧米人が、この騒ぎを本気で見たら、日本で、デモクラシーは地を掃ったと断ずるであろう。


これは私自身も經驗があります。私が北米某所に住んでた時。ある日突然、周圍の現地人がO. J. Simpsonに對する判決に就いて是非を語り始めました。それまで全く話題にすら上らなかったので私はその瞬間まで判決が下される日の事を知りませんでした。何せ「○○日に判決が出るけどどっちになると思ふ?」と言った類の會話すらありませんでしたから。

歐米先進國ではこれが普通だと言ふのを身を以て體驗しました。對して日本は……逮捕された時點で有罪との豫斷が入りますよね?

こんな野蠻國だから私は日本を脱出したのだとゴーン氏が手記でも書いて出版すれば……話題の人だから相當數賣れるでせう。そして日本は野蠻國だと世界に周知の事實として定着したら……

日本の當局は以後、ゴーン氏に手を出せなくなります。犯罪者の引き渡し條約を締結してたとしても、そんな國に引き渡すのは脱北した北朝鮮國民を政府として公式に北朝鮮政府に引き渡す樣なものです。自ら進んで文明國から野蠻國に成り下がる國家がどれだけ存在するでせうか?

この問題はゴーン氏の身柄や事件に留まらず日本國の國家としての信用に關はります。本來であれば渡部氏が警告する樣に日本國内に留め外國に對しては秘密にしてをくべき事かも知れません。しかし、インターネットの普及により渡部氏が主張した時代とは事情が異なります。もはや隱す事は不可能な時代です。

それより大事な事は日本が本當に文明國であるのか?先進國であるのか?と自問自答する事です。そして世界の一員としての日本國はその傳統慣習と言った軛から離れて客觀的な視點から如何にあるべきかを見直す事です。




■追伸■
あっ、ゴーンさん。實踐したらアイデア提供料下さいね(笑笑笑)。


■法相による由々しき暴言があったので追記(10/01/2680)■

日本語で書かれた記事を見てたらこんなのを見つけたのですが…

「潔白というのなら司法の場で無罪を証明すべきだ」



バカか、コイツは?

刑事裁判に於いて裁かれるのは被告人ではありません。檢察です。

被告人が○○の犯罪を犯したと一點の疑ひも無く立證しなければならないのは檢察です。被告人が自分の潔白を證明するのではありません。「推定無罪」「疑はしきは被告人の利益に」とはさう言ふ意味です。

にも拘らず法務大臣の口からこんな台詞が出ると言ふ事は、日本と言ふ國が近代法の何たるかを全く理解してないと自白してるのと同じです。しかもこの法相、辯護士資格を持ってるとの事です。辯護士なのに刑事訴訟法を勉強してないのか?

私が總理大臣だったらこの法相を即刻更迭します。それ位の問題發言です。

○○地區の出身者は穢多・非人だから人權は無いと言ふのと同じくらいの暴言です。


が、この發言により法相が更迭されたとの話は聞きません。制度上、首相權限で理由無く任免できるにも拘らず、です。今の日本の首相・シンゾー君にはこの發言の重大さが理解できてない樣ですね。ゴーン氏が"rigged Japanese justice system."と表現した事は全く正しいと言はざるを得ません。

ゴーンさん、手記を書いて出版する時は角榮裁判だけでなく辯護士資格を持つこの法相の發言も加へませう。日本と言ふ國が近代法もその前提となる人權の概念も理解・定着してない事が全世界に知れ渡ります。近代デモクラシーを理解してる國なら日本は暗黒裁判をやる國だ。ゴーン氏が逃亡したのは當然だ。となりますよ(笑笑笑)。

やはり日本人の精神はこのレベルだ…




(09/01/2680)
(10/01/2680)法相の由々しき暴言に就いて追記

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