名機と稱されるだけの理由がある(Chandra, Clavius)


チャンドラ、又はクラビウスと呼ばれるサブノートPCはモバイルユーザに絶讃され傳説とまで言はれます。しかし、他機種との比較を述べた記述はあまり見掛けません。そこで私の手元にある同時代の富士通BIBLO NCと比較してみました。尚、比較對象がNCなのはたまたま私の手元にあるからであり富士通に對する惡意はありません(笑)。私は親指シフターなので基本的に富士通ユーザですし(^^;

CF-M34と比較してもいいけど時代が違ふしTOUGHBOOKは特殊なので比較對象にならないし。FMR-CARDはDOS時代だしねぇ…

型番




全景




NCの裏面には滑り止めなのか布が貼られてます。


NCは裏面のネジを2本外せばキーボードを開いて中にアクセスできます。


内部比較



寫眞はThinkPad235
NCはメモリ、CMOS電池、HDD、バッテリの交換は簡單な部類と言へます。チャンドラはHDD以外は簡單ですがHDD交換は一般には敷居が高いと言はれてます。私はすっかり慣れて了ひましたが(^^;

畫面を開いた所


畫面を開いた時チャンドラはかなり華奢に感じます。開閉を繰り返すと「本當に大丈夫?」と思ふくらいに。對してNCはさうした不安は感じません。反面、畫面は小さいですけど(^^;

畫面に關して言ふとNCはDSTNなのでかなり見づらいです。發色も良くありません。チャンドラはTFTなので見やすく發色もいいです。但し、チャンドラにもDSTNモデルはあったのでその機種に關しては見づらいと思ひます。

スピーカーの位置は畫面下にあるNCの方が使ひ勝手は良いと言へます。チャンドラの場合キーボードに手を置くとスピーカーを塞ぐ位置にあるので(^^;

筐體サイズ


サイズはほぼ同じですがNCの方がやや小さいですね。但し、ポトリを裝着するとその分だけ出っ張りができるのでNCの方が大きくなります。

ポトリ単体


ポトリ裝着後


ポトリ背面


この樣にポトリを裝着する事で一通りのインターフェースが使へる樣になります。一方、チャンドラはポトリで分離せず全て内蔵されてます。FDDに關しては兩者共に外付けです。サブノートPCでは本體サイズの都合からこれが普通なので。486時代の東芝Dynabookがバッテリと排他で内蔵式だったかな?

ポトリを外してゐる間はコクネタ部分はシャッターで保護されます。裝着時は左右兩側のネジで固定するのですが若干グラグラします。強い力が掛かると折れるかも知れません(^^;




外部モニタやマウス・キーボードの端子もNCはポトリ側にありますがチャンドラは本體内蔵です。NCではマウスとキーボードそれぞれの端子がありますがチャンドラはどちらか一つしか接續できません。この邊はマウスを接續する事はあっても外部キーボードを接續する人はあまりゐないとの判斷でせう。トラックポイントの使ひ易さは別途マウスの必要性を感じないのでキーボードを接續したければそれで濟みますし。NCのポインティングデバイスは使ひにくいので外部マウスを接續できた方が便利だと思ひます。

インターフェースを別體とする事でサイズを小さくしたNCとサイズを多少犠牲にしてでも全て内蔵させたチャンドラのどちらが使ひ勝手が良いかはユーザ毎の用途によってに異なると言へるでせう。ただ、そのインターフェースが必要な場面が生じたのにポトリを忘れて來たなんて事があると面倒な事になるのは容易に想像できます。

ポトリ以外のインターフェースではNCがPCカードスロット一つとモデムが内蔵されてます。


對してチャンドラはモデムは内蔵されてませんがPCカードスロットが三つあります。通信を内蔵モデムで賄ふならカードスロットは一つで充分との考へ方もあります。しかしPCカード同士でのデータの受け渡しやバックアップが必要な場面では一端HDDにコピーしてから再度カードを插し替へるのは面倒です。

チャンドラはPCカード型モデムでスロットの一つが埋まっても尚二つのスロットを持つのでさうした面倒さは起きません。PCMCIAのカードを二つ使用し、一つはデータ保存用、まう一つをバックアップ用にする場面を考へればその便利さが理解できると思ひます。その一方がTYPE3のHDDカードだった場合はカード二枚分の厚みが必要ですが、TYPE3カードがスロット1&2を占有してもスロット3が使用できます。

※OSによってはPCカードスロットを二つまでしか認識できませんがチャンドラはWindowsでの使用を前提に開發されてるので餘程特殊な人でなければ問題が表面化する事はありません。私はBTRONで使ふのでスロット3が無駄になってますが(^^;

しかし、本質は通信デバイスが内蔵か否かではなく使ひ方に合はせた汎用性があるかです。内蔵されたモデムは確かに便利ですが通信の主流がモデムからLANに變はってしまった後、NCでLANに接續するにはPCカード型のLANカードを使ふしかありません。當然カードスロットは埋まりモデムはあっても使はないデバイスとなります。一方でチャンドラはカード型モデムだったのをLANカードに變更するだけです。

又、他の端末とデータのやり取りをする場合、NCの本體のみで考へられるのはPCカードに一端コピーするかIrDA、LANカードを插してクロスケーブルでせうか。ポトリがあればシリアル及びパラレルも選擇肢に入りますがチャンドラではLANを除き元々内蔵されてるので本體のみでより幅廣い選擇肢が提供されてます。

このユーザの使ひ方に合はせて何とでも應用できる設計がチャンドラが絶賛される所以です。ユーザがチャンドラを使ってる時に「これは困った」と思ふ場面が起きないと言ふ事です。それを意識させない所こそが設計の良さと言へるでせう。

キーボード比較




比較するとサイズ的にはほぼ同じです。


打鍵感覺はチャンドラもストロークが淺いのでお世辭にも打ち易いとは言へません。ただNCのキートップは高さが低く筐體とフラットな感じなのでチャンドラより打ちにくく感じます。それより使ひにくいと思はせるのが[Fn]キーとの組み合はせとなった設計。

[PgUp][PgDn][Home][End]と言った使用頻度の高いキーが[Fn]との組み合はせと言ふのは非常に使ひ勝手が惡いです。


一方でチャンドラはIBM傳統の7列キーボード。サイズが小さいからと妥協しないのはさすがIBMです(※)。


※念の爲説明しますがチャンドラは本來ThinkPadとなるべく開發されたものです。開發元のライオスはIBMとリコーが合同出資して作った會社であり日立版チャンドラでもBIOSを讀み込む起動畫面ではIBMの社名が表示されます。

そしてキーボードと併用する機會の多いポインティングデバイス。

ポインティング比較




チャンドラはお馴染みのトラックポイントです。その使ひやすさは今更説明する必要は無いでせう。

對してNCは形状こそトラックポントと同じですがその配置はパームレストの上にあります。トラックポイントの良さはキーボードから手を離さなくてもマウスを操作できる事。なのにこんな位置に配置されたのでは都度キーボードから手を離さなければなりません。はっきり言って使ひにくいです。これを開發した人は親指で操作する人なんでせうか?486〜Pentium時代のサブノートではトラックポイントと同じ位置にあった機種が見られましたが(Dynabookとか)何で無くなったのかなぁ…。もしかしてIBMからパクリだとクレームが來たとか?

チャンドラの特徴としてシステム起動後にいつでもBIOSを呼び出し設定できる事があります。NCに限らず普通は電源を入れOSが起動する前に呼び出し設定するものですがチャンドラではOS起動後でも自由に呼び出し設定が可能です。

設定の爲にわざわざ再起動を掛ける必要が無いだけでも利點ですが、實際に運用して感觸を確かめながら自分にあった設定ができると言ふのはユーザに親切です。

チャンドラのBIOSは細かい所まで設定が可能で特に省電力管理の項目は恩惠を受けた人が多いと思ひます。OS側では設定できない詳細な設定、AC電源かバッテリ驅動かでCPUをどれだけ稼働させるか、更にバッテリ殘量が減った時にどの樣にするか。

電力管理に限らず電源ボタンの動作やPCカードスロットの動作等、それを理解できるユーザには細かく設定して自分好みの運用ができる配慮がされてます。又、大抵のPCはPhoenix等外國メーカーのBIOSを使用してをりメニューが英語のままの事も多いのにチャンドラはライオス自身で設計してをり全て日本語メニューなのも特徴的です。このBIOSをアップデートしてユーザの利便性向上を繰り返した(SONY製NP-F550の充電對應やPCカード接續CDDからの起動對應等)點でもライオスは非常に良心的なメーカでした。

バッテリ比較

細長く配線が繋がってるのがNC用、二個づつあるのがチャンドラ用です。上が日立モデル、下がIBMモデルです。

チャンドラ最大の特徴とも言ふべき汎用バッテリ。ビデオカメラ用のがそのまま使用できます。Windows3.1の時代にCOMPAQ社のContura AEROと言ふノートPCがあり羊羹の角を落とした樣なバッテリが採用されてました。DURACELL製バッテリで當時の雜誌によればノートPC用の共通規格として普及させやうとしてゐたとの事ですがこのバッテリが共通規格になった話は聞きません。ポートの樣なインターフェースと異なり各社の製品そのものが關はる分野ではメーカーの枠を超えて汎用規格を制定するのは難しい所です。

しかし、チャンドラのバッテリは既にビデオカメラ用として汎用性のある物です。Panasonic用、SONY用等が使へます。その爲、出先で追加のバッテリが必要になっても電器店で購入できた事は有名な話です。NCだとPCの取り扱ひが無い電器店では購入できませんし、取り扱ひがあっても店頭在庫をそのまま購入できる可能性は殆どありません。

※1
チャンドラで使用可能なバッテリは以下の樣な物があります。
Panasonic VW-VBD1
SONY NP-500, NP-550, NP-F530, NP-F550等
富士フィルム NP510
京セラ BP-F550
その他互換バッテリ(ロワジャパン等)

※2
ThinkPad235の20Jに於いてSONYのNP-F550では充電しない問題がありましたがライオスはBIOSのアップデートによって對應しました。

汎用バッテリの利點はそこに留まりません。その機械のメーカーが消滅した後になっても入手可能だと言ふ事です。大抵の人は(業界の商賣戰略に乘せられて)ノートPCを数年で買ひ換へるのであまり氣にしないと思ひますが10年後にバッテリが入手可能な機種がどれだけ存在するでせうか?事實、ライオスが解散しメーカーが消滅した後になってもチャンドラのバッテリは新品が入手可能です。對してNCは入手不可能です。所謂殼割りをしてセル交換でもしない限りバッテリによる運用はできません。

この汎用性は單三電池のそれに近いと言へます。業界としては次々と新製品に買ひ換へさせないと利益が上がらないのでバッテリを交換できない仕組みにしてバッテリの壽命=製品の壽命とする手口を採用したがってますが、チャンドラはその氣になれば使ひ續ける事が可能です。私自身はウェブ閲覧さへしなければ最新のOSやアプリケーションに切り換へる必然性が無いので使ひ續けてます。

バッテリの運用面に於いて他に類を見ない實用性の高さはビデオカメラ用バッテリを二個採用した所にも現はれます。バッテリ運用中に電池が切れさうな場合、AC電源を確保できなければ基本的には一端システムを終了させるしかありません(ThinkPad220では巨大なコイン電池によってデータ消失を防いでた樣に記憶してますが)。しかし、チャンドラではシステムが稼働した状態のまま片方づつバッテリを交換できます。これにより豫備バッテリさへあれば連續稼働時間を氣にする必要がありません。汎用バッテリなのでチャンドラ本體で充電しなくてもいいですし。

對してNCは本體裏側にあるネジを外してキーボード側を上に開いて……システムが起動したままでの交換なんて全く考慮されてませんね。いや、チャンドラ以外でこんな使ひ方を考慮した機種は無いのでこっちが普通なんですが(^^; それでもわざわざネジを外してキーボードを開くNCは一般的なノートPCと比較しても使ひ勝手が惡いです。

私の實際の使ひ方としてはBTRON(B-right/V)をインストールし電子テキストの閲覧や文書データの作成用にしてます。MS-DOSもインストールしてるのでVzエディタやDOS/V用のゲームを動かす事も可能です。ストレージをHDDからCFカードに交換してるのでモーターが無い分だけバッテリの持ちも良くなります。普通に使って二〜三時間(電池自體の容量による)は持ちますしバッテリ容量の警告が出たら片方づつ交換すれば連續稼働できるので使ひ勝手は乾電池驅動のPDAの樣な感じになります。

クラビウス(ThinkPad235)の方はWindows2000とB-right/VのデュアルブートにしてあるのでWindows用の豊富なツールが使へますし動作條件の低い物に限定されますが當然ゲーム類も動きます。チャンドラのVGAに對してSVGAと畫面が廣いのでBTRONで複數の畫面を開いて作業する時はこちらの方が便利です。反面、バッテリの持ちはチャンドラより短くなるのでその時々の用途に應じて使ひ分けてます。

乾電池驅動のPDAの樣な手輕さでありながらPCの豊富な機能やツールが使へるノートPCは他に知りません。外國製で單三電池8本で稼働するネットブックがありましたがユーザ側でOSを變更する等ちょっと變はった使ひ方をすると色々と面倒さうです。プレインストールのOS以外でドライバあるのか?とか。チャンドラはWindows系ならXPまではインストール可能ですし(OSを相當輕量化しないと嚴しいけど)、私の樣にBTRONを使ふ事も可能です。人によってはLinuxを使ふ事もある樣です。

他にこの樣な使ひ方ができるのはThinkPad230Csのバッテリを純正電池ボックスに變更して乾電池驅動させた場合でせうか。しかしWindows3.1時代の機種なのでPCの機能が使へると言ってもチャンドラとは比較になりません。電池の持ちも230Csはあくまで緊急用ですし。DOSレベルの機能で良ければ乾電池驅動が可能なThinkPad220と言ふのもあります。ってどちらもチャンドラの源流ですね。220→230Csの流れを汲む後繼がチャンドラなわけですから。そこで培はれたノウハウが餘す所なく活かされてると言へます。

人間が行く所に持ち歩いて必要に應じて使用する。その運用に於いて要求される本質をこれだけ追求し實現したPCは他に無いと言へるでせう。そしてここまでユーザ本位で作れられたPCも。ライオスが解散した後になっても尚チャンドラ2(ThinkPad235)の最終版BIOSがリリースされた事はその一端を示すと言へるでせう(解散後暫くはリコーのサイトで引き繼がれてました)。

大衆に賣れさうだからではなく、從業員に支給する爲でもなく、ユーザが何を必要とするか。その本質を見失はずに追求した所にこそ名機と稱される理由があると思ひます。ライオスが解散せずにチャンドラ3が發賣されてたら……更にチャンドラ4以降も開發されてたら……と思ふのは私だけではないでせう。


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『さくら色カルテット』